日本で平穏に暮らしていると、外国人の文化を肌で感じる機会はなかなかない。
だから僕たちはどうしても「日本の文化・価値観」で世界を眺めてしまう。
“The Culture Map”という本を読んでみて感じたのは「国ごとの文化の違いを知らずに生きていくのは危ういし、損しかない」ということだ。
本書の中から1つ例をあげて、文化の違いを知ることがいかに大切かを紹介したいと思う。
アメリカ人とフランス人のちがうところ
“The Culture Map” というタイトルからもわかるように、この本は「世界の国々がどんな文化を持ち合わせていて、それが人間関係やビジネスにどんな影響を及ぼすか?」を解説した1冊だ。
ここで取り上げたいのが、アメリカ人とフランス人のちがいだ。本書の中から、エピソードを紹介したい。
フランス人の Dulac は、アメリカ人の上司である Webber の下で働くことになった。
Dulac(フランス人) は「いまの仕事は最高。これまでのキャリアでここまで上手くいく仕事はなかった」と、自身の仕事を絶賛する。
一方、上司である Webber(アメリカ人)は「彼女(Dulac)がつくるエクセルの表はひどいし、計算ミスも目立つ。ミーティングの準備もしてこない。それを彼女に伝えても、何も変わらない」という。
つまり、Dulac と Webber の仕事に対する評価が真逆なのだ。
なぜこんなことになってしまったのだろうか?それを端的にあらわした文があるので、引用したい。
In a French setting, positive feedback is often given implicitly, while negative feedback is given more directly. In the United States, it’s just the opposite. American managers usually give positive feedback directly while trying to couch negative messages in positive, encouraging language.
この英文をおおまかに捉えると、以下のようになる。
- 【フランス人】
- = ポジティブな意見はあいまいに、ネガティブな意見はハッキリと
- 【アメリカ人】
- = ポジティブな意見はハッキリと、ネガティブな意見は前向きに言い換える
つまり、フランス人とアメリカ人ではポジティブとネガティブの伝え方が真逆なのだ。
こうなると合点がいく。Webber(アメリカ人)は、Dulac(フランス人)に対して悪いところを指摘しているつもりでも、それが Dulac には伝わっていない。
Dulac はネガティブな指摘も前向きに捉えてしまうので、どんどん自信を高めていく。いっこうに Webber の不満が解決しないのだ。
本書にも書かれているが、これは決して Dulac と Webber の個性(パーソナリティ)の問題ではないという。アメリカに住む、フランス人の多くが同じような体験をしているらしい。
「欧米人」という言葉の弊害
この事例からもわかるとおり、文化の違いを知らないと仕事で痛い目に遭う可能性がある。
さきほど例にあげた Dulac が文化の差について知識をもっていれば「アメリカ人のフィードバックは、ネガティブな部分に重きを置いて聞くようにしよう」と心がけることができたかもしれない。その反対も同様だ。
ちょっとした失敗ならまだいいが、上司のフィードバックを間違って解釈し続けていたら、最悪の場合クビになってしまうこともあり得るだろう。
僕たち日本人は、どうしても”日本人と、その他の外国人”で二極化して考えがちだ。「欧米人」という言葉がそれを物語っていると思う。
もちろん「欧米」でくくれる話・テーマもあるけど、それで全て済ませてしまうのは良くない。
フランス人とアメリカ人を「欧米」でくくって仕事をしていたら、職を失う可能性もあるのだ。
もし外国人と仕事をしたり交流する場合には、「欧米人」「アジア人」「アフリカ人」などでくくるのではなく、それぞれの国に意識を向けるべきだと思う。
敏感な日本人のための、”精神衛生薬”
僕がこの本を読んで感じたことがもう一つある。それは「文化の違いを知ることは、日本人にとって”精神衛生薬”になる」ということだ。
多くの人がすでに感じていることだと思うが、日本人は直接的な表現を使わないし、否定的な意見もオブラートに包む。「空気を読む」という言葉がすべてを物語っている。
実際、本書でも以下のように書かれている。
Japan has the distinction of being the highest-context culture in the world.
日本は(「言わなくてもわかる」という)ハイコンテクストな文化が、世界で最も傑出している。
※has the distinction of being = ~であるということで傑出している
つまり、日本人はネガティブな意見を直接的な表現で言われることに耐性がない。強く言われたら、すぐに凹んでしまう。
しかし、外国に目を向けてみると、ネガティブな意見を直接的に言う国はたくさんある。たとえばイスラエル、ドイツ、ロシア、オランダといった国々は「ネガティブな意見を直接的な表現で言う傾向がある」と本書に書かれている。
これを知っているかどうかは大きな違いだと思う。たとえばドイツ人に強い口調でネガティブなことを言われたとしても「これはドイツの文化なんだ」と思えれば、精神的に多少はラクになるだろう(もちろんゼロにはできないけど)。
こんな感じで、文化の違いを知ることは、自分自身の”免疫力”を高めることにつながると感じた。そういった意味で、本書は大いに役立つと思う。
本書の難易度とキーワード
この本は具体的なエピソードが豊富で、シチュエーションを想像しやすく、わりと読みやすいと思う。ビジュアル(図)を使った説明も多い。
英文にクセもなく、単語も比較的やさしいものが使われている。
ただし、「主語の省略」や「倒置」などは出てくるので、文法知識がないと読むのに時間がかかるかもしれない。
「これ知っておくと読むのラクになるよ」と感じた、本書に出てくるキーワード(英単語)をいくつか挙げておく。
- ・explicitly
- ・implicitly
- ・between the lines
- ・recap
- ・High-context
- ・Low-context
- ・Persuading
- ・egalitarian
この本を読んでおけば、外国との交流がより円滑になると思う。なにより、単純に読み物としても面白い。
海外の人と仕事をするビジネスパーソンには特におすすめしたい1冊だ。
ちなみに、本書は『異文化理解力』というタイトルで日本語版も出ているので「洋書はちょっと…」という人はそちらを手にとってみて欲しい。